■秋刀魚と日本刀

今年は秋刀魚の大漁とかで度々食卓にのった。焼いた秋刀魚に大根おろしもいいが、生きの良いのが手に入ると、家人が出刃包丁で手を掛けて刺身にさばいてくれた。三枚におろしてから青い皮をはぐという作業だ。
そんな技を何処で覚えたのかと聞くと、若いとき一ヶ月だけ通った料理教室でだという。出刃と刺身包丁もそのとき買わされたと。でも、近頃は切れなくなったという。出刃包丁を見たら刃こぼれしていて、これでは切れるわけない。

そこで久しぶりに研ぎ屋を引き受けた。
若いときの木工実習でさんざん鑿や鉋の刃研ぎをやられたから、研ぎ屋の心得はある。
中研の砥石を水に浸して、出刃の刃こぼれを取り、刃全体を研ぎあげた。

ついでに刺身包丁も研ぐことにしたが、刃渡りが出刃の倍、20センチはある。この全体を均一に研ぐのはかなりやっかいだ。長い刺身包丁を研ぎながら、日本刀の研ぎ師は大変だろうなと思った。


いわゆる新刀の刃引きしたものを一度だけ抜かせてもらい、振り回したことがある。
竣工なったビルのオーナーが新築祝いに贈られたものだ。
真新しい白鞘におさまったものだった。鞘ごと左手に携えただけでズッシリと重量感がある。鞘をはらってみると刀身の長さ60センチはある。
しばらく正眼に構えていると、重さで自然に腕が下がってくる。
上段から真っ直ぐ振り下ろすと、自分の脚の脛を斬りつけてしまいそうだった。
左から右へ水平な振ったら、柄巻きされてない白木のままだから、スッポ抜けそうになった。


近頃のテレビや映画の時代劇では、刀をいかにも軽々と振り回しているのを観ると、とても重い真剣とは思えない。竹光かジュラルミンの小道具そのままではないか。昔々、水戸黄門を映画でやっていた月形龍之介という俳優は、小道具の刀をいかにも真剣のごとく重そうに使うことで定評があった。

とはいえ、こんな重い刃物を振り回して、運悪く斬られたらキット痛いだろうなと思わずにいられない。出刃でさばいた秋刀魚ぐらいが丁度お似合いだ。